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いづくも同じ秋の夕暮れ

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夕焼けイラスト1010


 寂しさに宿を立ち出でてながむれば
 いづくも同じ秋の夕暮れ

(さひしさにやとをたちいててなかむれは
 いつくもおなしあきのゆふくれ)

有名な良暹法師(りょうせんほうし)の歌です。
11世紀初頭の人ですから、いまから千年前を生きた人です。

秋といえば、天高く、山々には紅葉があふれ、作物が稔る季節です。
この歌は良暹法師が大原に隠棲して間もない頃に詠んだ歌で、出だしのところに「寂しさに」とあって、下の句が「いづくも同じ秋の夕暮れ」であることから、秋の寂寥感を詠んだ歌だと解説されていることが多いようです。

けれど、すこし考えたらわかることですが、山で、自然に囲まれた環境で、秋の夕暮れ時なんて、ちっとも寂しくなんてありません。
空は真っ赤な夕陽に染まり、樹々のもみじは紅く、銀杏は黄色に染まっています。
とりわけ夕暮れ時になると、鳥が啼き、秋の虫たちが、冬越えの準備のための求愛に、声をかぎりに鳴きだします。
沿道に目を向ければ、そこには曼珠沙華(彼岸花)や、キンモクセイ、萩の花やキキョウなどの秋の花が咲いています。



なるほど歌の冒頭には「寂しさに」とありますから、良暹法師は、寂しくなって宿(自分の家のこと)を出てみたのでしょう。
この人は、もともとが比叡山延暦寺の僧侶で、晩年になって寺を出て、京都大原の雲林院に隠棲し、65歳で没しました。

比叡山延暦寺というのは、この時代にはたくさんの無骨な僧兵を抱え、また全国から仏教を学びたいとする僧侶が集まって研鑽に励んでいたところです。
人が大勢いるところというのは、いまで言ったら、人の大勢いる大企業のオフィスや、大忙しで大繁盛している大手流通の店舗みたいなものです。
毎日、朝早くから夜遅くまで、毎日が気張りっぱなしの、慌ただしい毎日です。

そういう環境のもとで人が望むのは、晴耕雨読の平穏な日々です。
とくに良暹法師のような教養人にしてみれば、いつかは人里離れた田舎に草庵をいとなみ、自給自足で構わないから、そこで静かに暮らしたいと思うのは、およそ人情というものです。

今でいえば、忙しく働いて富を得て、南の島のビーチリゾートで、毎日釣りでもしながら、優雅に暮らしたいという理想というか、夢みたいなものかもしれません。

幸いなことに良暹法師(りょうせんほうし)は、歳をとって延暦寺を引退したあと、まさにこれを実現するわけです。
良暹法師が草庵をいとなんだ京都の北にある大原は、「京都大原三千院」で有名なところです。
人の往来も少ない。山に囲まれた静かな山里です。
現代でも静かなのですから、千年前なら、もっと静かだったことでしょう。

歌は、出典となった詞花集には詞書があって、そこには「大原にすみはじめけるころ」とあります。
つまり歌は、まさに良暹法師が延暦寺を出て、大原の草庵にひとり棲み始めた頃の歌であるわけです。

大勢の人が常にいて、騒々しくて忙しい日々から、やっと解放されて、自然の中でのんびりとひとりで暮らす、まさに夢に描いた日々がようやくやってきたのです。
ところが実際にこうして一人暮らしをしてみると、どうにも寂しくてたまらない。人里恋しくなるのです。
そこで庵を出て、表に立ち、あたり一帯を眺めてみた。

すると、もうすっかり秋景色です。
人がいない寂しさに、一歩外に出てみたら、そこは大自然の生命の息吹にあふれているわけです。
人間社会だけを見るのではなく、人もまた自然界のひとつと捉えれば、秋の山は、まさに生命の大地です。

つまり法師が「いづくも同じ」といっているのは、自分の居た、あの騒々しい比叡山も、人里離れた大原も「いずくも同じ」、つまり、どこもかしこもみんな生命の息吹に満ちあふれた、それぞれの命の活動の場であり、それらが渾然一体となってひとつの「美しい夕暮れ」を奏(かな)出ているのだなあと、歌で詠んでいるわけです。

そして、自分もそのなかのひとつとして、生かさせていただいている。
そういう感謝の思いまでもが、この歌に詠み込まれています。

学校では、この歌を、「秋の夕暮れの寂寥感を詠んだ歌」だと教わります。
しかし、先生の言うことを、テストのために鵜呑みにできる生徒には、それをそのまま暗記すれば足りる(満足する)ものなのかもしれませんが、私のようなひねくれ者は、「どうして秋の夕暮れが寂しいの?」とどうしても疑問に思ってしまうのです。

 夕焼け 小焼けで 日が暮れて
 山のお寺の 鐘がなる
 おててつないで みなかえろう
 からすと いっしょに かえりましょ

 子供が かえった あとからは
 まるい大きな お月さま
 小鳥が夢を 見るころは
 空には きらきら 金の星

夕焼けはあるし、赤とんぼは飛ぶし、カラスもツバメも飛んでいます。
道ばたからは、鈴虫の声、山では牡鹿が求愛のために鳴き声をあげています。
田んぼの稲はきれいに刈り取られ、田には藁を干す稲むらがいくつもできています。
収穫した新米の出荷がはじまり、秋の祭り囃子の音が遠くから聞こえて来ます。

野でも山でも人里でも、みんな一生懸命に生きているのです。
寂しくなんかない。みんながんばって生きている。
だから、自分も自然の一部としてがんばんなきゃ!!
そういう歌だからこそ、歌の「いづくも同じ秋の夕暮れ」が、千年の長きにわたって人々に愛され続けてきたのです。

そういうことを学校で教える。
あたりまえのことですが、子供たちは納得します。
納得して、歌の素晴らしさを感じ取って、覚えます。
その積み重ねが、学ぶことです。

質問されたら先生も答えられないから、先生が突っ込みを入れられたら困るから、だから頭ごなしに暗記だけを子供たちに強制していたら、そんなものは教育ではありません。拷問です。

戦前、戦中の子供たちは、学校で、まさにそういう授業を受けていました。
だからこそ、毎日6キロも7キロも歩いて学校に通ったし、田植えがあるからと親から「今日は学校を休みなさい」と言われると、子供たちは泣いて「学校に行きたい」と親にせがみました。
いまどきの学校で、そんな生徒はいるのでしょうか。

小学校3年生のとき、担任に山崎先生というちょび髭をはやした先生がいました。
先生は、ときどき授業のカリキュラムを変えて、「今日は教科書を閉じなさい。先生が面白い話を聴かせてあげる」と言いながら、和歌や偉人の話をしてくれました。
子供たちは大喜びで、ワクワクしながら先生の話に聴き入りました。

ところが、あまりに授業が楽しいから、子供たちはその日の授業の内容を親に報告します。
それが問題になりました。
授業のカリキュラムを無視して、勉強が遅れると、モンスターな親たちからクレームが入ったのです。
結果、その先生は、翌年、クビになり、他校に転勤していきました。

戦後のわたしたちは、常識を疑え、古い衣は脱ぎ捨てようと教わり、戦前、戦中の教育は、軍国主義の暗い、スパルタ式の恐ろしい洗脳教育であったと教わりました。
テレビや映画でも、そういう様子が描かれ続けました。

けれど果たして、本当にそうだったのでしょうか。
なるほど戦中は、授業どころではなく、子供たちまで防空壕堀りや教練に狩り出されたりもしました。
けれど、そんな中にあっても、人として大切なこと、あるいは古い日本の良い話や、偉人伝、道徳心、日本の国のカタチ、郷土愛など、人としてあたりまえに持つべき教育がちゃんとされていたといえるのではないでしょうか。

やはり小学校のときですが、「暴力はなぜいけないか」について、ホームルームで討論会が行われたことがありました。
どんな場合においても、暴力はいけない、というのが、授業のテーマで、もちろん先生はそういう方向に子供たちを誘導しようとしました。
ところが、生徒の間から(小学4年生です)、言葉の暴力はもっといけないのではないか、という声があがりました。
喧嘩の怪我なら、2〜3日もすれば治るけど、言葉で傷つけられたら、一生傷ついたままになる、とクラスに、とても頭の良い女の子がいて、その子が、そのように発言したのです。
結果、そのときのホームルームでは、子供たちの結論は、言葉で人を傷つけることはやめよう、ということになりました。
いま思えば、先生が誘導しようとした授業とは、かなり違った展開になったのかもしれません。

わたしたちの世代は、小学校の低学年までは、まだ戦前の教育を受けた先生方の力が強かった時代に授業を受けることができました。
親は教育勅語の暗誦と一字も間違わずに書写できること、歴代天皇の名前を暗誦できることが自慢だったし、先生も、戦前派の先生が、まだまだ力を持っていましたから、ある意味、とても幸せだったといえようかと思います。
いまにしてみれば、とても感謝です。

けれど、その後の人たちは、残念ながら、戦後派の教育を受けることになりました。
戦前までの日本を全否定し、戦争は良くない、古い古典文化は性的ルーズな低モラル社会でしかなかったなどという、おかしな教育を受け、夕焼け小焼けのような童謡や唱歌さえも否定され、日本の四季を知らず学ばず、ただ暗記だけの教育になってしまったかのようです。

教育を取り戻すというのは、何も大上段に振りかぶった大見得を切るようなものではなくて、実は、もっと自然体のあたりまえのことをあたりまえに教わる、そういう教育を取り戻すということなのではなかろうかと思います。
「いづくも同じ秋の夕暮れ」が、どうして寂しい歌なのか。

実は、ここで言っていることには、もっと深い意味があるんだよ、という、たったそれだけのことが、実は、日本古来の「察する文化」のテイストを学ぶことに通じるのではないかと思います。



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コメント
No title
昭和50年代後半ぐらいからでしょうか。
ことば狩りみたいのが出てきて、めくら、つんぼとか土方(どかた)等が使われなくなりました。
言葉の表面的な意味しかとらえなくて、良くないと思われる言葉のなかにも、歴史や時代背景があるのに。
向田邦子さんがエッセイの中で、そのことを嘆いているのを、ふと思いだしました。
2014/10/11(土) 05:03 | URL | うめ #-[ 編集]
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2014/10/10(金) 20:16 | | #[ 編集]
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2014/10/10(金) 16:59 | | #[ 編集]
No title

日本古来の古典文化(芸術や学問、慣習や振舞い)を、おざなりにしてきた戦後教育の歪が、まさに、今の子供達に現れてきています。
今の世の中で起こっているさまざまな問題の元凶は戦後教育にあります。
戦後教育の歪の何物でもありません。

古典文学、例えば和歌ですが、ただ暗記するのではなく、言葉の持つ意味、そしてその裏にある情景までをも学ばなければなりません。
そうしてやっとその歌の持つ奥深さというものが解かってくるのではないでしょうか。
先生が言葉の持つ意味の説明をされていたら、子供達は自然と考えなくても心の中で、そして頭で情景が浮かんできます。
そうして心が育つのです。

悲しいかな戦後教育(暗記教育)で育った先生方に、歌の持つ言葉の奥深い意味を教える、そのような力量はないでしょうね。
今、子供達を教えている先生方も、ある意味、戦後教育の被害者かも知れません。
だとすれば、被害者が、また同じ被害者を作っている事に他なりません。
これでは世の中、良くなるはずありません。

心のモラルが叫ばれている昨今、根本的な物を変えない限り、いくら叫んでみてもどうにもならない、その様に思います。

2014/10/10(金) 16:50 | URL | #PyZMa2bE[ 編集]
素敵な解説をありがとうございます
いつも、ねずさんの和歌の解説を読むと、美しい情景が思い浮かび、スッと心に入ってきます。こういう気持ちを子供達も味わえるといいですね。百人一首の本も、首を長くして待っています♪
また私の父も小学校に入ってすぐ終戦を迎えていますが、高校の体育の授業で海の遠泳があり、学年のほとんどの男子は5km泳ぎきったそうです。恐らく戦前からの教育が少し残っていたのではないかと思います。当時の学生の運動能力の高さに驚いています。
2014/10/10(金) 13:16 | URL | (*^_^*) #-[ 編集]
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2014/10/10(金) 12:28 | | #[ 編集]
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ねずさんのプロフィール

小名木善行(おなぎぜんこう) HN:ねず

Author:小名木善行(おなぎぜんこう) HN:ねず
静岡県出身。国史啓蒙家。倭塾塾長。日本の心をつたえる会代表。日本史検定講座講師&教務。
連絡先: nezu3344@gmail.com
著書
『ねずさんの昔も今もすごいぞ日本人』第1巻〜第3巻
『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』
日々、先人たちへの感謝の心でブログを書き綴っています。それが自分にできる唯一のお国への、先人たちへの、そしていま自分が生かさせていただいていることへのご恩返しと思うからです。こうしてねずブロを続けることで、自分自身、日々勉強させていただいています。ありがたいことです。

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