小野小町とやごとなき君 - ねずさんのひとりごと

小野小町とやごとなき君

2015年08月04日07:52  日本人の心 写真あり

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森田春代画「月華」(小野小町)
20150731 小野小町


上にあるのは、森田春代さんの描いた小野小町です。
森田春代さんは、海外で活躍されている日本画家で、きもの美人を描いた豪華絢爛な作風は、いまや世界中で大人気なのだそうです。
絵に筆字で歌が書かれています。

 うつつには さもこそあらめ
 夢にさへ 人めをもると 見るがわびしさ


小野小町の歌です。
森田春代さんは、この絵に、この歌を配置されました。
絵には背景にまっすぐな竹が配置され、遠目に高貴なお方を象徴するような欄干が描かれています。
願いが叶うと呼ばれている満月、そして月夜の晩です。
よく考えられた、歌にとてもマッチした絵だと思います。

けれど、一般にはこの歌は「夢の中でまで人目を避けて逢うなんて、なんてさみしいことでしょう」と嘆いているとか、あるいは「現実でも夢の中でも人目を避けなければ逢えない寂しさ」を詠んだ歌だとかと解釈されています。
嘆きや寂しさを詠んだ歌だというのです。
この美しい絵と、嘆きや寂しさでは、なんだかそぐわないような感じがします。

ところが歌を音読してみるとわかりますが、この歌からは嘆きや哀切感は感じられません。
むしろ透明感や可憐さや美しさを、ことばから感じます。
まさに絵のイメージとぴったりの感じを、歌そのものから私達は感じ取ることができます。
そして、だからこそこの歌は千年の時を超えて人々から愛され続けているのだと思います。

では、歌の本当の意味は、どのような意味なのでしょうか。


百人一首の本にも何度も書きましたが、和歌というのは明察功過、つまり互いの気持ちを察する文化です。
歌に書いてあることがそのまま言いたいことではなくて、何か言いたいこと、熱い感情を、何かに借りて詠む。
歌を聞く側は、その歌を手がかりに、その詠み人の気持ちを察する、そういう日本独特の察する文化がカタチになったものです。
そういう意味からすると、この歌も、ただ表面上の文字面から「逢えない寂しさを詠んだ歌」と決めつけてしまうのは、いかがなものかと思います。

この歌は『古今和歌集』に収蔵されていますが、その『古今和歌集』のカナ序文で、紀貫之は小野小町について、次のように書いています。
 *
小野小町は、古(いにしえ)の衣通姫(そとおりひめ)の流れなり。哀(あは)れなるようにて強からず、いわば好(よ)き女の、悩めるところあるに似たり。強からぬは、女の歌なればなるべし。
 *

要するに、紀貫之は小野小町を衣通姫にたとえているわけですが、その衣通姫というのは、日本書紀に、
 容姿絶妙無比
 其艶色徹衣而晃之
 是以時人号曰衣通郎姫也
として紹介されています。
現代語に訳しますと、「容姿の端麗さは他に比べる者がいないほどであり、その艶(いろ)っぽさは、衣服を通り抜けて、照り輝いて見えるほどで、だから世の人々は衣通郎姫(そとおりのいらつめ)と名付けたほどです」となります。

つまり紀貫之は、小野小町を、絶世の美女として名高い衣通姫と同じ絶世の美女とたたえ、その歌はたおやかにみえながら(つまり清純に見えながら)悩ましさをたたえた歌を詠んでいると絶賛しているわけです。

そしてその小町は『古今和歌集』の656番に、この歌が収蔵されていて、そこではただ「題しらず」となっているのですが、その同じ歌が実は『小町集』にも14番に収蔵されています。
そして『小町集』では、詞書に、

 やんごとなき人のしのび給に

とあります。
「やんごとない」は、高貴で尊い人という意味です。
そんな高貴な人が、ある夜、小町のもとに忍んで来たわけです。
これは、小町自身の体験なのか、それとも、小町と親しい女性の体験なのかは、歌からはわかりません。
とにかく、憧れの尊いお方が、忍んで来られた・・・ということをテーマにしています。

日頃からお慕いしていた男性です。
でも、本当にそんな男性が目の前に現れたら、きっと私はあまりの嬉しさに顔をあげてその男性のお顔を見ることさえできないでしょうと詠んでいます。
夢の中でさえも、顔をあげて正面から見ることができない相手なのです。
そんな人とリアルで会ったら、それこそ真っ赤になってうつむくばかりで、声も出せない。見ることもできない。
だからこそ、そんな自分を「わびしさに」と詠んでいるのではないでしょうか。

冒頭の一般の解釈では、人目を避けてリアルに逢う、もしくはリアルに逢えない寂しさを詠んだとしています。
けれど、私にはそのような歌にはどうしても思えないのです。
むしろこの歌は、大好きな人だけど、夢の中でさえ想いがつのって恥ずかしくて顔をあげてその人の姿やお顔を見ることさえできないでいるのに、リアルに逢ったら、それこそ、どうしましょう、どうしたらいいの?となってしまう。
そんな高ぶる感情を詠んだ歌に思えるのです。

 うつつには   現実には
 さもこそあらめ さすがにそうなってしまいますわ
 夢にさへ    夢の中でさえ
 人めをもると  人目を避けて
 見るがわびしさ 顔を上げて見ることもできない、そんなわびしさ

夢にまで見た憧れの君です。
夢の中でさえ、恥ずかしくって、
正面からお顔をみることさえできないのに、
現実にお逢いするなんて、
あまりにも恥ずかしすぎてお顔さえ見れない。
それでとってもわびしくてもったいないことですのに。

そんなニュアンスの歌なのではないでしょうか。

いま、トム・クルーズさんが来日しています。
映画『ミッション・インポッシブル』の公開のためなのだそうですが、カッコよくて大スターのトム・クルーズに憧れる女性がいたとして、そのトム・クルーズとふたりきりで逢うことにでもなったら、それこそ顔をあげてみることさえもできない。
例えがいまいちかもしれませんが、雰囲気はわかっていただけるのではないかと思います。

つまりこの歌は、一般の解釈のように「人目を避けて逢うことへの嘆き節」だとか、「夢だけじゃなくリアルにも逢えない辛さ」だとかいうような「しみったれた歌」などでは全然なくて、絶世の美女と人に讃えられた、そんな小野小町であっても、大好きな人との出会いにふるえる、そんな純粋な心を持った乙女であることを象徴した歌ということができます。

輝くばかりの美女でも、心の中は、純粋で恥ずかしがり屋の少女であり乙女なのです。
その意味では、一般の普通の女性そのものです。
人は外見ではない。
心の純粋さや、内側にある心は、美女であっても、普通であっても、みんな同じです。
そして、そのような心を持った女性を、美女と讃えたのが日本の古代です。

少し考えたらわかることですが、このとき忍んで行った男の子の側も、なんたって小野小町という絶世の美女のもとに忍んで行くのです。
もしかしたら、自分なんて歯牙にもかけてもらえないかもしれないという不安な気持ちを持ちながら、小町のもとに忍んで行ったに違いないのです。
つまり、小町も、相手の男性も、お互いに夢にまで見た相手とリアルに逢っています。
そして逢いながら、お互いに恥ずかしくて顔を合わせることさえできないでいます。
すこし生臭い表現をしますが、心の高鳴りやトキメキこそが大事なのです。

近年、男女の仲を、ただの肉体の関係みたいに扱うドラマや小説が増えてきているような気がします。
しかし人間は獣(けだもの)ではありません。
愛しあう心のふれあいや、心の高鳴りがあって、はじめてそこに悦びがあります。
そういうことがわからないと、女性をただの性の道具に見立てる馬鹿者が生まれます。

典型が、慰安婦性奴隷という、韓流日本人の造語です。
心こそ大事。
そう思うからこそ、戦前の日本人は、ただの売春婦に、兵隊さんが亡くなる前に最後に接してなぐさめ安心させるご婦人という意味で慰安婦と名づけているのです。
性奴隷と慰安婦では、そこに天地ほどの意味の開きがあります。

 好いた惚(ほ)れたと
 けだものごっこがまかり通る世の中でございます。
 好いた惚れたは、もともと心が決めるもの。
 こんなことを申し上げる私も、
 やっぱり古い人間なんでござんしょうかね。


鶴田浩二の「傷だらけの人生」の歌にあるセリフです。
この通りと思います。
そして心のトキメキをなにより大切にしてきたのが、日本人だし、1200年以上昔の小野小町が詠んだこの歌が、いまでも多くの日本人に愛されている理由だと思います。

小町の詠んだ歌は、女性の立場からの歌ですが、こうした心理は、中高年になってからでもあるものだと思います。
密かに想う憧れの君がいる。
夢にまで見てしまう。
けれど、リアルにその人と会うと、ただのおじさんやおばさんを演じてしまう。
そんな自分を見る(感じる)さみしさ、みたいな感じです。

 うつつには さもこそあらめ
 夢にさへ 人めをもると
 見るがわびしさ

それにしても、小町の心をここまでとろかした「やんごとなき君」って、いったい誰なんでしょうかね。
まさに男冥利に尽きるというか。。。。

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