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日本は「たみ」が「おほみたから」とされる天皇のシラス(知らす、Shirasu)国です。


和泉式部と貴船の神様

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20151114 和泉式部


和泉式部は、このブログでも何度もご紹介している中世を、というよりおそらく日本史上最高の女流歌人です。
その和泉式部の歌のひとつをご紹介します。
後拾遺1162番の歌です。

 もの思へば 沢の蛍も 我が身より
 あくがれいづる 魂(たま)かとぞみる


現代語に訳すと次のようになります。

「夜の暗闇の中でもの思いにふけっていたとき、
 沢に舞っている蛍が、
 まるで自分の身から抜けだした魂のようにみえました」

現代語にすると、なんだかひどく軽くそっけなくなってしまいます。
やはり音律というか、言葉が五七五七七のリズムに乗ったときに独特の情感が生まれるように思います。

さてこの歌には詞書があります。
そこには「男に忘られて侍りける頃、貴船にまゐりて、御手洗川にほたるの飛び侍りけるを見て詠める」とあります。
何があったのでしょうか。


男というのは、二番目の夫である藤原保昌のことです。
貴船というのは、京都鴨川の水源地にある貴船神社のことで、縁結びの神様としても有名です。

多くの解説書が、夫に忘れられ、貴船神社に詣でたとき、御手洗川にホタルが飛んでいるのを見て詠んだ歌だと解説しています。これまた、ただの直訳です。
肝心なことが伝わらない。

当時は通い婚社会であり、夫がしばらく通ってきてくれないから、なんとか復縁をしたくて、縁結びの貴船神社にお参りに行った。
それはそうでしょう。そのように書いてある。
けれど問題は、なぜそのとき夫が通ってこなかったのかにあるのです。

すこし経緯を振り返ります。
和泉式部は、最初、和泉守となる橘道貞と結婚しました。
そこで一女をもうけています。それが百人一首にも出てくる小式部内侍(こしきぶのないし)です。
和泉式部の子だから小式部です。

この結婚は、和泉式部にとって、あまり幸せな結婚とはいえなかったようです。
二人は別居生活してしまいます。
そんな傷心の和泉式部の前に現れたのが、為尊親王殿下でした。
教養があり、やさしい為尊親王は、和泉式部にとって、まさしく白馬に乗った王子様でした。
二人は大恋愛におちいりました。
けれど、別居中とはいえ、和泉式部は人妻です。為尊親王は、天皇の御子です。
二人の関係を周りが許さない。

けれど許されない恋だからこそ、いっそう式部の心は燃えました。
親から勘当されても、すべてを捨ててさえ、為尊親王殿下との恋を選びました。
ところが大熱愛のさなかに、為尊親王殿下が突然、お亡くなりになってしまうのです。

悲しみに沈む和泉式部の前に現れたのが、為尊親王殿下の弟君である敦道親王殿下です。
いつしか二人は深い仲になりますが、その敦道親王殿下も、若くしてお亡くなりになってしまう。
すこし想像してみてください。
心の底から愛した相手が、突然、死んでしまう。
悲しみに沈む式部の前に、まるでひとすじの光明のように現れた敦道親王までも、死んでしまう。
言葉では言い尽くせないほどの悲しみを、和泉式部は二度までも重ねてしまうのです。

それから十数年、宮中で働く和泉式部の前に、当時50代の藤原保昌が現れます。
とてもやさしい男です。
もともと武人の保昌は、和泉式部の全てを知って、式部を嫁にと求めました。
良い縁談です。
結婚は、周囲も勧めてくれました。
二人は結婚し一男をもうけました。

保昌は良い男です。
和泉式部の連れ子も、まるで我が子のように可愛がりました。
ときどき式部が悲しみに沈む姿を見せると、ただ黙って肩を抱いてくれました。
やさしくておもいやりのある男でした。

和泉式部には、夫・保昌の愛が、痛いほどわかりました。
けれど心のなかには、亡くなった親王殿下がいます。
夫の愛に答えなくてはと思えば思うほど、心が夫を裏切っているような、式部の心には葛藤があります。

保昌は不器用な男です。
妻の苦しみも知っています。
だからこそ、よけいに「俺が守らなければ」と思います。
男として、夫として、妻の全てを受け入れようとします。

けれど、保昌も人間です。
ときには、辛くなることもある。
愛する妻は、自分の腕の中にあるけれど、その妻の心の中に自分がいないのです。
それでも、妻を守らなくてはと思う。
保昌は和泉式部を愛していたからです。

だからこそ、ときには妻をひとりにしておいてあげるべきではないかと思います。
そんなとき、保昌は妻の元に通わず、実家に帰ります。
「俺がいるから、女房は辛いに違いないんだ。しばらくはそっとしておいてあげよう」
そんな思いです。

和泉式部にも、夫の気持ちはわかります。
自分のせいで夫に辛い気持ちを与えてしまっているのです。
和泉式部は生身の人間です。
10年以上も前に亡くなった人のことばかりを思うのではなく、いまの幸せをどうして願わないの?と、まわりの友達もアドバイスしてくれたことでしょう。
それもよくわかります。
だから辛い。
夫が来ないこともまた辛い。
和泉式部には、そういう葛藤があるのです。

だから貴船神社にお参りしました。
貴船神社は縁結びの神様です。
縁結びというのは、普通は、これから結ばれる男女が願いを叶えに行くところです。
けれど和泉式部は、このときすでに保昌と結婚しています。
心の結ばれる夫婦になれる自分にならなければという思いがあるから詣でたのだということを、和泉式部は「貴船にまゐりて」と書いています。

京の都から、鴨川の水源地にある貴船神社までは、結構な距離があります。
神社に着いて、長い階段を登ってお参りを済ませます。
ようやく下まで降りてくると、あたりはもうすっかり暗くなっています。

ふとみると、御手洗川の川面に、ホタルが飛んでいる。
「ああ、私も、魂がこの肉体から飛び出して、あのきままに自由に飛んでいるホタルみたいになれたら良いのに」
そんな気持ちを和泉式部は歌に託しました。

 もの思へば 沢の蛍も 我が身より
 あくがれいづる 魂(たま)かとぞみる

和泉式部は、川面で舞っているホタルを「憧れ出づる魂」と詠みました。
自分の御霊が、この肉体から離れて、あの無心に舞うホタルのようになれたらどんなに良いだろう。
そんな気持ちです。
何もかも放り出して、死んでしまいたいと思うときというのはあるものです。



ところがこの歌には続きがあるのです。
浮かんだ歌を書き留めたとき、和泉式部の頭のなかに、声が聞こえてきたのです。
その声は、次のように言いました。

 奥山にたぎりておつる滝つ瀬の
 たまちるばかり物な思ひそ


貴船神社の奥にある山で、たぎり落ちている滝の瀬のように、おまえは魂が散ることばかりを思っておるのか?
人は、いつかは死ぬものじゃぞ。
毎日、滝のように多くの人が様々な事由で亡くなっていることをお前も存じておろう。
人は生きれば、いずれは死ぬのじゃ。
おまえはまだ生きている。
生きているじゃないか。
生きていればこそ、ものも思えるのじゃぞ。
なのになぜ、お前は魂の散ることばかりを思うのじゃ。

それは貴船の御祭神の声だったかもしれないし、あるいは亡くなった二人の殿下の声だったのかもしれない。
和泉式部の心が生んだ幻聴だったのかもしれません。
ともあれ式部には、その声が聞こえました。
そして彼女は歌を短冊に書き留めました。

これが、いまに伝えられている、二つの歌です。
貴船神社というのは、神武天皇の母となるタマヨリヒメのご神託によって水源の神様をお祀りする神社です。
水はすべての生命の源です。
つまり命の源をお祀りしています。
その神社で、和泉式部は「なぜ魂の散ることばかりを思うのじゃ」という声を聞いています。
式部はその声を、「貴船の神の声」ではなく、単に「神の声」と書き留めています。
古代において、神とは御霊を意味する言葉です。

本音で言えば死んでしまいたいと思ったときに、この声が聞こえました。
和泉式部の目から涙が一筋こぼれ落ち、それはいつしか嗚咽となりました。



今日、申し上げたいのは、式部の貴船神社参拝と冒頭の歌は、「女性の気持ちや思いが、とことん大切にされた時代」だからこそ詠まれた歌である、ということです。
それが日本が飛鳥、奈良、平安の昔に確立した、女性が輝く時代に、現実に「あった」というこを申し上げたいのです。

和泉式部の人生は、決して幸せなものではなかったかもしれません。
だからこそ彼女は歴史に残る素晴らしい歌の数々を遺したのだともいえます。
けれどそれは、式部の気持ちや心がとても大切にされた、そういう世であったからこそ和泉式部のようなすごい歌人を誕生させることができた。
日本はそういう歴史を築いてきた国なのだということを申し上げたいのです。

世界には、女性の気持ちや思いなどに関係なく、暴力によって女性を奪い、蹂躙してきた長い歴史があります。
世界の民族の歴史、戦乱の歴史というものは、すべてそういう歴史です。
ほとんど、「こんな人類に誰がした!」と言いたくなるほど、情けない歴史を営んできたのが、実は世界の人類史です。

けれど日本は、こうした心を大切にする文化をずっとずっと古い昔から育んできたのです。
もし保昌が、自分勝手にただ思いを遂げるタイプの、よくある外国人のような男であったのなら、彼が和泉式部の気持ちを大切に思うことはありません。
なぜなら女性は戦利品であり、モノだからです。

そういう世界や時代や世の中なら、女性の気持ちが斟酌されることはありません。
先の大戦が終わり、外地から朝鮮半島を経由して祖国に帰ろうと逃げ落ちてきた女性たちがどれだけ犠牲になったことか。
あるいはベトナム戦争で、どれだけ多くの女性達が犠牲になったことか。

そのような世界にあって、日本では、男たちが女性の微妙な心をおもいやり、不器用ながらも女性の心を大切にしてきたという歴史を紡いできました。
そのことが、女性の側の歌にも、こうしてくっきりと描かれているのです。
それが日本です。

世界中どこの国にあっても、自国にPRIDEを持ったり、誇りを持つことは、胸を張ることにつながります。
一方、日本の歴史や文化は、歴史を学べば学ぶほど、文化を知れば知るほど、頭が下がり、謙虚な気持ちにさせてくれるのだと思います。

それを貶めたり、学ばせなかったりすることは、逆にいえば、日本人から謙虚さを失わせ、学ぶ心を失わせる、それこそ、たいへんな暴力行為だと思います。


■和泉式部に関連する記事
◯女性が輝く時代
http://nezu621.blog7.fc2.com/blog-entry-2472.html

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コメント
No title
>>藤原保昌
和泉式部が、約45歳ころ貴船神社でヘブライ語で書かれた詩を翻訳、和歌へ変換した歌をどこをどうやったら藤原保昌宛てになるのやら?
ちなみに京都の貴船は枝社ですよ
誰が書いた詩なのか、アマノウズメが死を直前に、ニニギ宛に書いた詩
平城京が680年ころ、平安京が平城京の約100年後に創られた街
ヤーマ、トゥーの意味が判らないと答えは一生出せない
2016/09/21(水) 23:12 | URL | ターレ #E6kBkVdo[ 編集]
No title
小名木様の所に来られる客人達は、私が足元にも及ばない教養人なのですね。教養人は、和歌の心もさることながら美しくもはかなく繊細極まりない女性の心おも見通す力に長けておられるのでしょうね( *´艸`)。小名木様の著書を宇佐市民図書館で拝読してから、時々お邪魔しています。
2015/11/21(土) 23:20 | URL | 三毛猫 #-[ 編集]
No title
こんにちは。貴船神社は、けっこう山深い所にあったりしますww
叡山電車で貴船口を下りて、川沿いの道を歩く事30分位で本殿。更に平安
時代に本殿のあった奥殿に歩きますと、途中に樹齢千年の杉がありますが、
これが二股にわかれて生えていたりするわけです・・名前は忘れましたが。
和泉式部の時代に漸く芽をだしていた杉ですねwwここに平安時代は夜に御
参りしていたそうで・・そりゃあ都の中心からは距離がありますから、朝早
くから馬で出るか、牛車でもつらいでしょうから途中で1~数泊したかもし
れません。今でこそ車も通れる道ですが、細い場所があります。貴船山の登
りは徒歩だったかな?それでも貴船神社に御参りする人々は多分・・少なく
はなかったはず・・和泉式部のような女性までが御参りしていますし。貴船
神社は水の神で祈雨の神様(たかおおみの神、くらおおみの神)です。平安
時代の西日本は干ばつが多かったために雨乞いの人もあり、旅路のインフラ
はそこそこ整っていたのではないかな?縁結びは結社(中宮)で磐長姫命を
祭ってあります。当時の平均気温は2℃程高かったという説もあり、またそ
のため微生物は繁殖しやすかったでしょう・・疫病が都度々はやってますね。
為尊親王も流行り病での病没説があるそうです。
まあ、ここからは自由連想です。雨を祈願するだけではなく、命が断たれな
いようにお願いする神さまに詣でたいという気持ちが、磐長姫命をお祭りす
る動機にならなかったかな?木花開耶姫とのからみより、平安の貴族達は縁
結びとしゃれてみたけれど、本心は長命を願ったのかも?
貴船の地に最初に水神を祭られたのは初代神武天皇の皇母である玉依姫命と
いう話もあるそうです。命の玉・・魂・・と連想するわけで・・だから・・
たま・・という言葉を歌に入れる・・こういうお約束なのでしょう。歌は神々
への捧げものでもあったでしょうから。
和泉式部は、思いのままにならぬ世と人生に素でぶつかっていった方だから、
惹きつけるものがあるのでしょう。
人の身も こひ にはかえつ夏虫のあらはに燃ゆと見えぬばかりぞ(後拾遺集)
 人の身も”恋”の火にかえる あつい夏の虫・・人の心を左右する内心の虫
 あきらかには燃えていると見えてないだけ
この火の虫が、水の神の沢を見ると蛍に灯っている・・自分の体から抜けた
のだろうか・・たましいの一部と思っていたのが抜け出て飛び去るのか・・
・・・・・これが水神のお言葉であるのならば・・・
さすが和泉式部ww立ち直るところが素晴らしいと思うのですよ。でなけれ
ば、勘当もものとせずに2度も大恋愛に陥る事はできませ~んww
ちなみに、貴船神社の水の神は、イザナミノミコトを死においやった火の神
をイザナギノミコトが断ち切った血から生まれたそうです。
火の再生は水。水素を燃やすと水になりますね。神は原子でもあるのかな?
2015/11/16(月) 06:26 | URL | くすのきのこ #-[ 編集]
No title
>世界には、女性の気持ちや思いなどに関係なく、暴力によって女性を奪い、蹂躙してきた長い歴史があります。

これまで、様々の映画やテレビドラマを見てきました。
その中では、日本人が信じられないほどの野蛮な行動をしていたので苦々しく思うとともに、だんだんそれに慣らされてきた部分もあったのが、正直なところです。

これは、長年のマスコミによる洗脳活動の影響を、受けてきていたのだと思います。近年、影響が大きくなっていたことは否定できません。

しかし、ネットの中を徘徊しているうちに感じたことは、日本人はここまで酷いことをできるのかとの疑問でした。

気がつくと、半島や大陸での民族が想像もできないくらいの、悪辣なことをしていたことを知りました。

そして、彼らがやっていた悪辣な行為は、日本人がやっていたとされて、それを一生懸命に映画やテレビドラマ化をして放送されてきたように思います。ただ、これの困るところは、ドラマの中で行った行為を日本人が本当にやったことだったと吹聴することです。

それに、これまでのままだと視聴者が興味を持たないと考えた制作者が、物事をどんどん大げさにすることで視聴者は興味を持つと考えたのでしょうか、現実にあり得ない事柄を映画やドラマの中に入れることにも馬鹿らしくなりました。

結果、映画やドラマを見ることが大幅に少なくなりました。
考えてみれば、最近の映画やドラマの制作者から、日本人が減っているように思います。
2015/11/15(日) 19:11 | URL | ポッポ #-[ 編集]
No title
今日もありがとうございます。

心の底がキュンなりました。

繊細で心温まるお話でした。
2015/11/15(日) 13:07 | URL | えっちゃん #-[ 編集]
いつも素晴らしい記事をありがとうございます。

よくよく考えてみると、古代〜中世の海外女性作家の話は聞きませんね。私が無学なだけかもしれませんが…、何だか納得しました。

そう考えると、いま海外(白人)連中が日本に対して女性の権利を声高に叫んでいる状況が酷く滑稽に感じます。独裁国家ほど国名に「民主主義」を付けたがることや、「弱い犬程よく吠える」という言葉に近い物を感じます。

女性権利について「海外に習え」している日本は、どんどんおかしな事になっている様に思われます。本当の男女平等は、適材適所=役割分担です。お互いの長所を尊重しあう事であって、女性が男性と同じ立場になる事じゃない。身体の作りがそもそも違うのだから、適性も違って当たり前。
機会は平等に与えられるべきですが、男性の方が適性がある職場で、人数取ることをノルマとして女性に下駄を履かせる今の状況はおかしいと言わざるを得ません。
2015/11/15(日) 09:45 | URL | 蓮華丸 #-[ 編集]
No title
http://ameblo.jp/masaminarita/entry-12094427444.html古代ユダヤ人の本当の子孫はパレスチナ人
2015/11/15(日) 07:30 | URL | junn #p4GOlP7Y[ 編集]
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小名木善行(おなぎぜんこう) HN:ねず

Author:小名木善行(おなぎぜんこう) HN:ねず
静岡県出身。国史啓蒙家。倭塾塾長。日本の心をつたえる会代表。日本史検定講座講師&教務。
連絡先: nezu3344@gmail.com
著書
『ねずさんの昔も今もすごいぞ日本人』第1巻〜第3巻
『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』
日々、先人たちへの感謝の心でブログを書き綴っています。それが自分にできる唯一のお国への、先人たちへの、そしていま自分が生かさせていただいていることへのご恩返しと思うからです。こうしてねずブロを続けることで、自分自身、日々勉強させていただいています。ありがたいことです。

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