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曽我兄弟物語

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20160209 曽我物語


「曽我兄弟物語」は「曽我物語」とも呼ばれ、赤穂浪士物語、伊賀越え物語と並ぶ、日本三大仇討ち物語のひとつです。
かつては人形浄瑠璃などで定番だったお話で、下の写真にある静岡県富士宮市の「音止めの滝(おとどめのたき)」も、その名前は曽我物語に由来します。
この滝は、日本の滝百選の一つに指定されている落差25メートルの名瀑で、近くにある白糸の滝とは対照的に豪快で雄雄しい男滝として有名です。


20160209 音止めの滝



時は、平安末期の頃、伊豆の工藤家と伊東家の間には、長年続くの領地争いがありました。
ある日工藤家の者が、狩りをしていた頭領の伊東祐親に弓を射ます。
放たれた矢は、頭領の祐親をかすめると、脇に立っていた男に誤って命中しました。

射殺されたのは祐親の息子の河津三郎(かわづさぶろう)です。
悲報は妻と二人の息子に知らされます。
亡骸と対面した妻は泣き崩れました。

そして二人の息子に、こう言いました。
「よくお聞き。お父さんは工藤祐経に殺されたのです。
 お前たちはまだ幼くてわからないでしょうが、
 お前たちが大きくなったら、
 お母さんは、
 お前たちにお父さんの仇を取ってもらいたいのです」

三歳の弟にはまだ理解できないことでしたが、五歳の兄は、目の前に横たわる父の顔をじっと見つめて言いました、
「必ず、お父さんの仇を取ります。」

その後、母は曽我氏と再婚。兄弟も曽我姓となりました。
兄は曽我十郎祐成(すけなり)、
弟は曽我五郎時致(ときむね)と名乗りました。
義父に大事に育てられた二人は、母の言葉を忘れずに育ちました。

こうして二人の姓は「河津」から「曽我」に変わりました。
戦(いくさ)だけでなく、事故や怪我、病気によって、昔はあっというまに人が死にました。
家長である夫が斃れると、妻は普通に再婚したし、それがあたりまえのことでもありました。
とりわけ平安中期に起こった武家は、もともと新田の開墾百姓であり、江戸風にいうなら農家の名主さんや庄屋さんに相当する人たちです。

そのような、いわば社会の上位にある人たちにとって、領主である夫が亡くなれば、誰かがその領などの財産を相続しなければ、麾下の一族郎党がみんな飢えてしまいます。
もちろん子が元服していれば、一族の主を相続します。
けれど子が幼ければ妻が夫の遺産をすべて相続しました。このことは武家諸法度にも明確に定められています。

そして妻が遺産を相続していて、その妻が別な男性のもとに嫁げば、妻の領土の田畑と婚姻した新夫の領土の田畑が合わさり、領土が広くなります。
田畑は田植えや稲刈りなど、共同できる人が大勢いて、かつまた土地が広大なほど、農業生産性はあがります。
平安期の源治、そして鎌倉時代の武家の相続は、子が相続する場合、この人数分の均等配分方式でしたから、妻が再婚することによってすこしでも土地が広くなっていれば、子供達の相続がより安定するものとなったのです。

そして社会の上層部がそのように再婚を普通に認める社会でしたから、一般の農家や商家においても、夫死別後の妻の再婚はごく普通に行われていました。
こうした背景がずっと残り、戦時中や戦後すぐの頃、戦地で亡くなった夫に代わり、再婚はごく一般に行われたことでした。

このような時代背景がありますから、兄弟が河津姓から曽我性に代わったことは、多くの人に、わが人生との共感を呼んだであろうと思います。
また再婚後も、前夫の恨みを保ち続けるということは、心も体も次の夫のものとなっても、前夫への鎮魂を忘れない、それが貞淑な妻とも考えられていたわけです。

ある日のこと、野で遊ぶ二人の上に、五羽の雁が飛びました。
空を飛ぶ雁を見て、兄が弟に言いました。

「雁が一列になって飛んでいる。
 2羽は親で、3羽は子供だ。
 私たちにも親がいる。
 でも今の父は、本当の父ではない。
 本当の父は、祐経に殺された。
 血のつながった父はもういない」

「祐経に会ったら、弓で射て、首を刎ねてやる」と弟。

「大声を出してはならぬ。
 このことは誰にも話すでない。
 仇討は二人だけの秘密だ」

兄弟は、祐経を仇と定めたのですが、仇討の機会はなかなか巡って来ません。
1192年、源頼朝が征夷大将軍に任ぜられると、翌年、富士の裾野で大規模な狩の大会が開催されました。
二人は頼朝の家臣団にもぐりこみ、その晩、祐経の宿所を突き止めました。

決行の晩、兄弟は岩陰に身を隠し、祐経の宿所に如何に近づく相談をしました。
ひそひそと話そうとするのですが、近くにある滝が、ゴーゴーと鳴り響いて、互いの声が聞き取れません。
兄弟がふと「心なしの滝だなぁ」と、ためいきをつくと、あら不思議、激しい滝の音がぴたりと止みました。
兄弟の相談がすむと、再びゴーゴーという滝の音があたりに響きました。

「俺たちには、神仏のご加護がある!」

この音止めの滝の話も有名なところで、神仏は必ず徴候を見せてくださるという、ひとつの挿話になっています。
地震・水害や、世の中を乱そうとする者が政権を取ったときなどにある、良くない徴候が凶兆です。
逆に良いことが起きる時にあるのが吉兆です。

兄弟は、狩り大会の宿所をあちこち調べました。
月が雲間から顔を出しました。
祐経の宿所が見つかりました。

月が雲間に隠れました。
たちまち豪雨となりました。
雨音は、二人の侵入の足音を消しました。

「起きろ、祐経!河津三郎の息子、十郎なり」
「弟、五郎なり。
 亡き父の積年の怨みを晴らしに参上!」

祐経の手が刀に届こうとしました。
その寸前、兄は、祐経の左肩から右わきの下にかけて袈裟に斬りおろしました。
弟の剣は、祐経の腰を貫いてとどめを刺しました。

兄弟は勝利の名乗りあげました。
ここは見せ場の有名なセリフです。

「遠からん者は音にも聞け!
 近くば寄って目にも見よ!

 我こそは、河津三郎が子、十郎祐成、同じく五郎時致なり。
 たった今、父河津三郎の仇、祐経討ち取ったり。
 我ら、宿願を果たし候~~!!」

兄弟は、すぐに祐経の家来に取り囲まれました。加勢の者も加わりました。
兄弟は、勇猛果敢に戦うのだけれど、兄は斬り合いの最中に殺され、弟はとらわれます。

翌日、弟は、将軍頼朝の前に引き出されました。
祐経は将軍頼朝の寵臣です。
見事、父の仇を討ったとはいえ、死罪は免れないであろう。
覚悟の定まった弟・五郎は、恐れ気もなく堂々と頼朝に、父が射殺されたことを述べました。
そして、自分たち兄弟の18年の艱難辛苦の日々を語りました。

将軍、頼朝も、若き日々、政治犯の息子として流刑にあい、辛い日々を過ごした過去を持ちます。
そして、頼朝のみならず同席の誰もが、親を思う子の気持ちに痛く感動しました。
しかし判決は「死罪」でした。

五郎は言いました、
「本望なり。
 死は覚悟の上のこと。
 あの世とやらで亡き父兄(ちちあに)と、
 とく(早く)対面いたしたし」

兄・十郎22歳、弟・五郎20歳でした。

「曽我物語」は、鎌倉時代に書かれた物語です。
鎌倉時代における武家諸法度は、仇討を含めて一切の私闘を禁じています。
「喧嘩口論可加謹慎、私之争論制禁之」
というのがそれで、子細あってどうしても私闘をしなければならないときは、奉行所に訴えて、沙汰を待つようにと定められています。
そしてもし違背すれば、死刑か流罪+財産没収という重い刑が科せられました。

ですから、たとえ親を殺されたという恨みがあっても、たとえ武家であっても、御常法に従い、あくまでも奉行所に訴え、奉行の許可を得て尋常に工藤祐経と立ち会うか、奉行に裁量を委ねるか、自重するかしなければなりません。
ましてこの場合における兄弟の父の死は「事故死」です。
工藤祐経は、兄弟の父への殺意があって殺害したわけではありません。

にもかかわらず、これを長年恨み続けるということは、たいへんに不幸なことです。
亡くなった父の河津三郎にしてみれば、たとえ自分の身が滅んだとしても、そのために子が不孝になるのではいたたまれません。
どこまでも子の幸せを願うのが親の心というものです。
まして亡父にしてみれば、男二人の兄弟です。かわいくてたまらなかったことでしょう。
そのかわいい我が子が、わずか20歳や18歳で若い命を散らすことなど、いったいどの親が望むのでしょうか。
それこそ親不孝です。

一方、夫を殺した相手が許せなかったという母の気持ちは痛いほどわかります。
しかしだからといって相手を恨むのは「私心」です。
武家は、どこまでも「公」のために命を捧げる存在です。
棟梁への忠義は、そのためのものです。

にもかかわらず、夫の死を悼む母の私心によって、見事仇討は成し得たけれど、大事な二人の子は早世しています。
父の仇と付け狙い、最後には強大な敵を打倒して拍手喝采という庶民感情と、武家としてあるべき姿は異なります。

なるほど神々は、仇討にあたって滝を止めて吉兆をみせてくれました。
おそらく神々は、あえて曽我兄弟に仇討ちをさせることによって、武士という「腰に刀を下げて弓矢を手にする者」たちにとっての「孝」とは何か、「忠」とはなにか、「公」とは何か、「私心」とは何かを、しっかりと考えるように、あえて兄弟に仇討ちを認めることで、人々に「日本人としての正しい道」を考えるように導いてくれたに違いありません。
そのような意味で、曽我兄弟は死して武人の魂となったのであろうと思います。

日本の歴史を振り返ると、このように神々が意図的に正義を負かせたり、世の中に不条理をあえてつくったりという現象が要所要所に必ず出てきます。
良い例が、保元の乱からはじまる平安末期から鎌倉初期の相次ぐ戦乱の時代です。
その時代があればこそ、日本は元寇を撃退する実力を身につけています。
また戦国時代は国が荒れた時代ですけれど、その戦国時代が我が国を世界最大の鉄砲保有国にし、世界最強の軍事国家として欧米の植民地化の波から日本の独立を守っています。

昨今では曽我物語の持つ意味合いも、ただの仇討物語としてしか解せられず、それは人殺し礼賛の物語だから教科書にも載せるべきではないなどと、わかったようなわからないようなきわめて低次元な議論によって、曽我物語自体がまるで排除され、この物語を知る人自体が少なくなりました。
たいへんに残念なことであり、日本人の劣化そのものを象徴していることなのではないかと思います。





※この記事は2009年8月の記事のリニューアルです。


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コメント
私も凶兆を2度、当時それと知らず目の当たりにしました。一度目は神戸の震災、連立内閣で「アジア女性基金」を作った村山総理の時です。二度目は民主党が政権をとり、菅直人が首相となった時起きた東北大震災。
被災された方々を想う時湧き上がる辛い気持ちは、共通して深刻な二次被害を起こした両指導者とその組織への怒りも喚起します。間違いなく、現在の問題意識を醸成したきっかけだったと思います。
2016/02/13(土) 19:32 | URL | 渡辺 #-[ 編集]
No title
母の気持ち。史実はどうだったか、ちょっと考えてしまいます。
常盤は乳飲み子の牛若に、亡き父の敵を討てと、果たして念じ続けたでしょうか。
個と公と言う視点では、特攻隊の心情は、美しさを感じます。

2016/02/10(水) 20:32 | URL | one #-[ 編集]
中国の野望
アメリカは中国が民主化することを信じて戦後中国を支援してきました。が、騙されていたことにやっと気が付いたようです。気が付いたた時にはすでに手に負えないような状況になっています。

しかし、いまからでも遅くない。本当に手に負えなくなる前に、経済的に追い詰めて中国共産党を解体する必要があります。チベットやウイグルの二の舞になりたくなければ、日本は覚悟を決めてアメリカと協力していく必要があります。少し長いが読んで下さい。

中国「100年マラソン」の野望

「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年にあたる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」
■転送歓迎■ H28.02.07 ■

■1.「自分が信じ込んでいた仮説は、危険なまでに間違っていた」

過去30年にわたって中国専門家としてアメリカの歴代政権の対中政策に関わってきたマイケル・ヒルズベリー博士が著書『China2049 秘密裏に遂行される
「世界覇権100年戦略」』[1]で、自分がいかに中国に騙されていたかを赤裸々に語って、話題を呼んでいる。
__________
わたしは、1969年に中国との連携を後押しする最初の情報をホワイトハウスに提供したひとりなのだ。以来、数十年にわたって、技術と軍事の両面で中国を援助することを両党の政権に促してきた。

その間を通じてわたしは、アメリカのトップレベルの外交官と学者が共有する仮説をすっかり信じ込んでいた。・・・すなわち、「中国は、わたしたちと同じような考え方の指導者が導いている。脆弱な中国を助けてやれば、中国はやがて民主的で平和的な大国となる。しかし中国は大国となっても、地域支配、ましてや世界支配を目論んだりしない」というものだ。・・・

こうした仮説は、すべて危険なまでに間違っていた。現在、その間違いが、中国が行うこと、行わないことによって日に日に明らかになっている。[1,162]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

一人の専門家が、これほど率直に、かつ1冊まるまるを使って自らの過ちを世に公表した事はかつてあっただろうか。文章は冷静で淡々としているが、紙背からは、30年も中国に騙されていた責任を痛感し、まだ間に合ううちに世界の人々に真実を知らしめたい、という静かな執念が感じられる。

■2.「100年マラソン」

博士が「危険なまでに間違っていた」と悟ったのは、次のような経緯だった。

1990年代後半のクリントン政権下で、博士は国防総省とCIAから「中国のアメリカを欺く能力と、それに該当する行動について調べよ」と命ぜられた。そこで諜報機関の秘密資料にあたったり、中国の反体制派をインタビューするうちに、従来の「中国の平和的な台頭」という仮説とは矛盾する事実が続々と出てきた。

__________
やがて見えてきたのは、タカ派が、北京の指導者を通じてアメリカの政策決定者を操作し、情報や軍事的、技術的、経済的支援を得てきたというシナリオだった。これらのタカ派は、毛沢東以降の指導者の耳に、ある計画を吹き込んだ。

それは「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年にあたる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」というものだ。この計画は「100年マラソン」と呼ばれるようになった。共産党の指導者は、アメリカとの関係が始まった時から、この計画を推し進めてきたのだ。[1,281] ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

中国はアメリカの伴走者を装って助けて貰い、十分力をつけてから、最後のラストスパートでアメリカを抜き去って勝者としてゴールインする、という戦略なのである。

■3.「100年マラソン」が引き起こした中ソ対立

博士が「100年マラソン」の戦略に気がつくと、中ソ対立もそれが原因だった事が、改めて了解できた。

1969年、中国はアメリカに、ソ連と対抗するための協力をしたいと申し出た。ニクソン政権はそれを受けるかどうか決定するために、博士に分析を求めた。

博士は国連本部事務局のソ連職員アルカディ・シェフチェンコと仲良くなり、彼の意見を引き出した。彼は、何十年も中国はソ連の援助に頼る弱者を巧みに演じてきたが、その後で「ソ連の指導者は中国が共産圏の支配、ひいては世界支配を目論んでいると考え、中国人を憎み恐れている」と語った。

ソ連から来た他の国連職員もこう警告した。「中国に脇役に甘んずるつもりはない。彼らには彼らのシナリオがあり、世界という舞台の主役を射止めるためなら何でもする覚悟だ。アメリカが中国の誘いに乗れば、予想もしない結果を招くだろう」と。

しかし、当時、中国の経済規模はアメリカの10分の1に過ぎなかった。その中国がアメリカを追い抜くことを夢見るなどというのは非現実的なことのように思えたので、ヒルズベリー博士は米政府に直接的な中国支援を推奨した。
__________
こうして中国との新たな関係が始まり、それは、わたしたちが考えもしなかった重大な結果をもたらすこととなった。[1,593]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

■4.「今になって、自分の単純さが悔やまれる」

1978年、カーター政権下で米中関係は正常化され、アメリカは中国を積極的に支援し始めた。中国は最初の5年間に1万9千人の中国人留学生をアメリカの大学に送り込み、その後、さらに増やしていった。

1981年にレーガン大統領が署名した「国家安全保証決定令」では、中国軍の戦闘能力を国際レベルにまで底上げするために、先進的な空陸海の技術を中国に売ることを許可するものだった。

またアフガニスタンに侵攻したソ連に対して、アメリカは反ソ・ゲリラを支援して泥沼化させ、これがソ連崩壊の大きな要因となったのだが、その際にも中国から20億ドルもの武器を購入して、ゲリラ勢力に提供している。

レーガン大統領はソ連打倒という点では巨大な貢献をしたのだが[a]、その手段として中国を強力に支援して、ソ連への圧力とするという戦略をとったのだ。

レーガンは中国の危険性にも気がついていて、対中支援の指示書にサインする際にも、「対中支援は、中国がソ連からの独立を維持し、独裁体制の民主化を図ることを条件とする」という但し書きをつけたのだが、この条件はなし崩しにされた。「民主化」を図っているという中国側のポーズに誰もが騙されたのであろう。

アメリカのビジネス界も、中国市場が世界最大となるという見通しのもとに、米政府の対中支援を支持し、積極的に中国進出を図った。しかし自動車などの重要産業は中国政府との共同出資を義務づけられたため、中国側に経営を握られ、技術も盗まれていった。

自由を求める学生や若者を大量虐殺した天安門事件が起こっても、ブッシュ政権下の中国支持者は、ヒルズベリー博士も含めて、これはタカ派の過剰反応で、トウ小平率いる「穏健派」を保護すれば、彼らはやがて中国を民主化への道に戻すだろう、という一つの仮説にしがみついていた。博士はこう後悔している。

__________
今になって、自分の単純さが悔やまれる。優れたアナリストなら、一つにすべてを賭けたりはしない。[1,1733]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

■5.孫子の兵法

「100年マラソン」の手段は、かつてのソ連のように、核ミサイルなどの軍事力のみでアメリカを凌駕しようという単純なものではない。

中国の戦国時代に発達した『孫子の兵法』[b]に基づき、諜報、謀略、外交、経済など、すべての手段を使って相手を圧倒することを目指している。直接的な軍事力は総合的な国力の10%以下でしかなく、戦わずして相手を屈服させるのが最高の勝利だと考える。

たとえば2013年の米政府内の調査によれば、中国はパトリオット・ミサイル、イージスミサイル防衛システム、オスプレイなど多くの兵器システム設計にサイバー侵入したと見られている。

サイバー技術は機密情報を盗むだけでなく、攻撃にも使われる。米軍の弱点は、あまりにも最新の情報通信技術に頼りすぎている点にあり、サイバー攻撃によって兵器の通信・制御システムがダウンしたら、米軍の動きは麻痺してしまう点が大きな懸念となっている。

経済分野においても、中国政府のバックアップをうけた国営企業が世界市場でシェアを広げつつある。世界の大企業500社のランキングであるフォーチュン・グローバル500には、2014年に中国企業が95社もランクインした。

その一つ、世界最大の電気通信会社の一つ「華為技術(ファーウェイ)」のネットワークを使うと情報を盗まれる恐れがあるので、米英政府は国内での同社の機器の販売を禁止している。

テロ集団や独裁国家を支援することも、米国打倒の手段の一つである。2001年9月11日の同時多発テロの直後には、タリバンとアルカイダが中国製地対空ミサイルを受けとった事実が確認されている。アメリカの特殊部隊がそのうちの30発を発見した。

アフリカ諸国には2兆ドルもの無条件融資を餌に、反欧米プロパガンダの浸透を図り、独裁政権を支援してきた。さらにその他の地域でもシリア、ウズベキスタン、カンボジア、ベネズエラ、イランなどの独裁国家を手なずけている。パキスタンとリビアに核技術を提供した証拠も見つかっている。

こうしてサイバー攻撃や、国営大企業の世界市場進出、テロリストと独裁国家の増殖により、アメリカの覇権は着々と浸食されつつある。

■6.「100年計画は予定より早く進んでいる」

「100年マラソン」のゴールは2049年だが、近年、GDP(国民総生産)で日本を抜いて世界第2位となり、アメリカの軍事力もあって、中国内では前倒しの可能性が論じられている。

__________
・・・中国の指導者のなかには、100年計画は予定より早く進んでいると結論づけた者もいる。学者や諜報機関の職員は、少なくとも10年、もしかすると20年も計画より先に進んでいると言いはじめた。こうして中国の指導者たちは、マラソン戦略に戦術的変更を加えるかどうか、つまり、ラストスパートをかけるかどうかを討議するようになった。[1,4429]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「ラストスパート」では、アメリカに助けられている伴走者というポーズをかなぐり捨てて、一気にアメリカを抜き去る。近年の尖閣海域での傍若無人ぶり、南沙諸島の軍事基地建設、サイバー攻撃の頻発、AIIB(アジアインフラ投資銀行)設立など、中国が今までの弱者の擬装をかなぐり捨てた可能性はある。

アメリカ側も中国が正面の敵であると認識し始めた。アメリカ外交政策を論ずる大本山である外交問題評議会(CFR)は、従来「親中派」の牙城だったが、今回出した特別報告書ではリチャード・ハース会長が序文にこう書いている。

「中国は今後数十年にわたって、アメリカにとっての最も深刻な競争者であり続けるだろう」「中国の経済軍事両面での大きな膨張は、アメリカのアジアにおける利害、あるいは全世界におけるアメリカの利害に対して、大きな危険をもたらすだろう」。従来とは打って変わった敵対的な認識である。[2]

今回のヒルズベリー博士の著書も、米世論の急激な転換に大きな役割を果たしているのだろう。

ヒルズベリー博士は、中国の「100年マラソン」に打ち勝つための12段階の戦略を展開し、それを行う時間はまだ十分ある、としている。

その内容は、「孫子の兵法」を逆用したもので、いくつかは弊誌852号「孫子に学ぶ対中戦略」[b]で、太田文雄・防衛大学校教授の著書から紹介したものと共通している。特に中国内の環境破壊や汚職のひどさを中国国民にも知らしめ、民主化勢力を支援する事は、中国共産党独裁政権のアキレス健をつく戦術である。

アメリカの強みは、共和党と民主党で目指すべき方向は違っても、いざ国防・国益の問題となったら一致団結するという点だ。中国の擬装が明らかにされた以上、米国は今後、断固として中国に対峙するだろう。

■7.日本はどう対処するのか

ヒルズベリー教授は、日本に関しては次のように語っている。

__________
中国のマラソン戦略が実行可能かどうかを測る試金石となるのは、日本が西の領海でますます攻撃的になる中国にどう対処するかということだろう。

少なくともこれまでの20年間、中国政府は、ライバル国(この場合は日本)のタカ派を卑劣な手段で攻撃するという戦国時代の戦略を推し進めてきた。日本を悪者にする作戦をアジア全域で開始し、日本国内の聴衆にもそのメッセージを浴びせた。[1,4275] ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

我が国は「100年マラソン」との戦いの最前線で、中国と直接、対峙している。しかし、我が国の弱みは、中国の使う「軍国主義」プロパガンダに乗って、野党や左翼マスコミがいまだに「100年マラソン」の擬装を支えている事だ。敵国の国論を分裂させる「心理戦」が、孫子の兵法の一つなのだ。

まずは中国が「100年マラソン」に勝ったら、どのような世界になるのか、日本国民はよく知るべきだ。その姿は、現在の中国内の事実を見れば明らかである。

真実を語る民主派や報道記者[c]、宗教関係者は投獄され、テレビやインターネットも最先端のIT技術による検閲を受け[d]、チベット[e,f]・ウイグル[g]などの異民族は搾取・弾圧され、民衆は環境破壊と低賃金に喘ぎ、党や政府、国営企業の幹部が汚職に励む。

我々の子孫をそのような世界に住ませたくなかったら、まずは我々自身が、中国の「100年マラソン」という野望の正体をよく見極めなければならない。
(文責:伊勢雅臣)
2016/02/10(水) 15:35 | URL | にっぽんじん #-[ 編集]
伊賀の仇討ち、荒木又右衛門の決闘も
是非ねずさんに紹介して頂きたいです。
もう随分前ですが仲代達矢さんが演じられた荒木又右衛門の決闘鍛冶屋の辻は良かったです。 NHKですが、日本人の演出ですね。武士道に生きる人間の凄さ優しさが
よく描かれていたと想います。
2016/02/10(水) 12:44 | URL | 大阪市民 #-[ 編集]
No title
今日もあろがとうございます。

切ないお話でした。母としては、子供が死罪になることは身のきられるおもいであったでしょう。

『おそらく神々は、あえて曽我兄弟に仇討ちをさせることによって、武士という「腰に刀を下げて弓矢を手にする者」たちにとっての「孝」とは何か、「忠」とはなにか、「公」とは何か、「私心」とは何かを、しっかりと考えるように、あえて兄弟に仇討ちを認めることで、人々に「日本人としての正しい道」を考えるように導いてくれたに違いありません。』

そう思います。

大きな神はからいを感じます。
2016/02/10(水) 11:17 | URL | えっちゃん #-[ 編集]
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ねずさんのプロフィール

小名木善行(おなぎぜんこう) HN:ねず

Author:小名木善行(おなぎぜんこう) HN:ねず
静岡県出身。国史啓蒙家。倭塾塾長。日本の心をつたえる会代表。日本史検定講座講師&教務。
連絡先: nezu3344@gmail.com
著書
『ねずさんの昔も今もすごいぞ日本人』第1巻〜第3巻
『ねずさんの日本の心で読み解く百人一首』
日々、先人たちへの感謝の心でブログを書き綴っています。それが自分にできる唯一のお国への、先人たちへの、そしていま自分が生かさせていただいていることへのご恩返しと思うからです。こうしてねずブロを続けることで、自分自身、日々勉強させていただいています。ありがたいことです。

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台灣民政府
台湾民政府
サンフランシスコ講和条約で、日本は台湾に関して処分権は連合国に提供しましたが、領土の割譲は行っていません。条約以降、連合国も日本も台湾の処分先を決めていません。つまり台湾はいまも日本であり、台湾にいる1500万人の戦前からいる台湾人は、日本国籍を有する日本人です。私は台湾民政府を支持します。
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コメントをくださる皆様へ
基本的にご意見は尊重し、削除も最低限にとどめますが、コメントは互いに尊敬と互譲の心をもってお願いします。汚い言葉遣いや他の人を揶揄するようなコメント、並びに他人への誹謗中傷にあたるコメントは、削除しますのであしからず。
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コメントをくださる皆様へのお願い
いつもたくさんのコメントをいただき、ありがとうございます。
ほんとうに皆様のコメントが、とっても嬉しく、かつありがたく拝読させていただいています。

議論というものは、すくなくともこのブログのコメント欄が、国政や地方自治、あるいは組織内の意思決定の場でなく、自由な意見交換の場であるという趣旨からすると、互いに互譲の精神を持ち、相手を尊敬する姿勢、ならびに互いに学びあうという姿勢が肝要であると存じます。

私は、相手に対する尊敬の念を持たず、互譲の精神も、相手から学ぼうとする姿勢も持ち合わせない議論は、単なる空論でしかなく、簡単に言ってしまえば、単なる揶揄、いいがかりに他ならないものであると断じます。

ましてや、自分で質問を発したものについて、それぞれお忙しい皆様が、時間を割いて丁寧にご回答くださった者に対し、見下したような論調で応対するならば、それは他のコメントされる皆様、あるいは、それをお読みになる皆様にとって、非常に不愉快極まりないものとなります。

従いまして、謙譲・互譲・感謝、そして学ぶという姿勢のない連続投稿、粘着投稿に類する投稿をされた方については、以後のコメント書き込みを、管理人である私の判断で投稿の禁止措置をとらせていただきますので、あしからずご了承ください。
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